海と山の幸にブランド牛や栄養価の高い野菜
熱海に秘めたガストロノミーのポテンシャル2025.0114
海の幸や山の幸、さらには栄養価の高い野菜。
食材に恵まれた熱海は近年注目されているガストロノミーでも、他の地域をリードする可能性を秘めている。
食を追求する熱海の宿泊施設は味にとどまらず調理法や盛り付け、お酒とのマリアージュ、さらには食事の空間演出やサービスなど細部まで妥協がなく、食への探求心が強いエグゼクティブ層や海外の観光客からも評価が高い。
今回は「ガストロノミーで演出する”熱海宿泊プラン”」を提供する宿泊施設のうち4つをご紹介する。
■ホテルグランバッハ熱海クレッシェンド 直接交渉で仕入れ先を開拓
ここでしか堪能できない味、そして唯一無二の空間がある。だからこそ、この場所を訪れることを目的に宿泊者は足を運ぶ。JR熱海駅から車で15分。「ホテルグランバッハ熱海クレッシェンド」は伊豆山の標高361メートルに位置する。
森の中にたたずむまるで隠れ家のようなホテルを訪れる人たちのお目当ての1つがオーベルジュならではの料理である。地元の食材にこだわるホテルは珍しくないが、ホテルグランバッハ熱海クレッシェンドの探究心は群を抜く。正統派のフレンチを学んできた総料理長の北野智一さんは、近隣の海の幸や山の幸に加えて、静岡県東部のブランド牛「あしたか牛」やジビエ、丹那牧場の乳製品を使ってメニューを組み立てる。まさに“Gift from Terre et Mer”だ。
時には自ら食材の交渉にも乗り出す。1年半で3回も直接訪れて料理に対する考え方を伝え、ようやく開拓できた農園もあったとか。北野さんは「その農家さんは、野菜を自然に育てたいという思いが強い方でした。収穫する野菜はスーパーで並ぶようなものと違って、通常のサイズより小さかったり、時には曲がっていたりします。ただ、野菜そのものの味が濃くて、個性的な見た目にもどこか愛らしさがあります。そんな農家さんに敬意を表しつつ、上手く料理の一皿に落とし込めるように工夫しています」と語る。
料理と合わせるワインもソムリエが味を見極める。マネージャー兼ソムリエの山本順一さんは「値段が高くておいしいワインは当たり前ですが、価格を抑えてもお料理との最高のマリアージュをお愉しみいただけるワインや、お客さまが聞き慣れないワインかもしれませんが様々なオケージョンにご提案できるとっておきのワインを常に探しています」と語る。16部屋のホテルグランバッハ熱海クレッシェンドに、なんと3名もソムリエがいるというのも納得だ。
■熱海を感じるメニュー 地元食材を使って季節感演出
こうした地元食材や味へのこだわりを近年注目度が高まっているガストロノミーにも生かす。北野さんは「冬の時期であればジビエを使った料理やあしたか牛の赤ワイン煮込みがピッタリです。魚はキンメダイや赤エビなど地元の食材を使って季節感を出し、熱海を感じていただくところをガストロノミーのポイントに置いています」と語る。
ガストロノミーには、食事を中心とした特別な時間や空間の提供が期待されている。その要素の1つとなるのが、シェフの料理への思いをしっかりと伝えること。料理人とサービスの皆さんとのそんなチームワークがあるからこそ、唯一無二の“とき”を過ごす魅力がある。山本さんは、こう話す。
「お食事の時間を通じて、お客さまには感動していただきたいと思っています。私たちはメニューをお渡しするだけではなく、調理の工夫、香りや食感の楽しみ方などを細かく説明して、お客さまと一緒に空間を盛り上げていきます。『ホテルグランバッハ』というその名の通り、お料理が奏でるハーモニーをお伝えしたいと思っています」
五感を満たす演出は、音楽にもある。メインダイニング『風雅 – FUGA -』では、ピアノの生演奏でバッハなどの曲が奏でられる。モーツァルトやベートーベンも演奏されるが、バッハの曲は比較的抑揚が少ないため、「心が整う」という。ホテルグランバッハ熱海クレッシェンドだからこそ、食で胃袋、音楽で心を満たしてくれる。
(左から)ソムリエの山本さん、総支配人の関根さん、そして総料理長の北野さん
「ホテルグランバッハ熱海クレッシェンド」公式サイト
★【ホテルグランバッハ熱海クレッシェンド】ガストロノミーの申し込みについては<こちら>(英語サイト)
■あたみ石亭 純和風の旅館でブランド牛「静岡そだち」を堪能
宿泊客が安らげるプライベート空間を大切にしている旅館「あたみ石亭」も、料理では地産地消に重点を置いている。趣の異なる大小11室で楽しめるのは懐石料理。ガストロノミーでは静岡県の和牛「静岡そだち」をメインに据える。柔らかくきめ細かな肉質と口どけの良い脂が特徴で、ブランド牛としての地位を確立しつつある。
創業60年以上の歴史を持つあたみ石亭の特徴と言えば、その名の通り「石」にもある。全国から銘石を集め、庭園には灯篭や流水、松などの常緑樹を合わせて画になる純和風旅館をつくり上げた。
建物は日本の文化や風情を感じさせ、料理も盛り付けまで繊細な日本料理の王道を貫いていることから、インバウンドの需要も高い。アジアやヨーロッパのツアー客が訪問。フランスからの団体客が貸し切るケースもあった。支配人の村上大輔さんは「海外のお客さまには料理に加えて、おもてなしも気に入ってもらっています。私たちの旅館は日本を感じられることが求められているので、日本らしさを大切にしていきたいと思います」と語る。
■ビジネス需要も拡大 従業員の親睦を深める場に
また、ビジネスの利用も伸びているという。旅館の中には最大80名が入る会議室がある。会議室で仕事をしてから温泉で疲れを取り、食事を楽しむ。さらに、館内のクラブで2次会を満喫する団体もいる。部屋は離れなので、部屋に集まってお酒を楽しむ宿泊者もいる。中には月に一度の頻度で団体利用する企業もあり、村上さんは「定期的なミーティングの場として活用し、従業員同士の親睦を深める企業が増えています」と話す。
料理でも建物でも和を存分に感じられるあたみ石亭。日本人も外国人も、観光客もビジネスパーソンも魅了している。
支配人の村上さん
「あたみ石亭」公式サイト
■熱海パールスターホテル ウェルネス意識したガストロノミー
ビジネス利用の中でも、特に経営者層の心をつかんでいるのが2022年9月にグランドオープンした「熱海パールスターホテル」。熱海駅から徒歩10分の好立地で、ウェルネスとラグジュアリーを両立するリゾートをうたっている。外観から高級感を演出し、地下220メートルから90℃で沸き上がる温泉を全部屋に引いていおり、外国人にも好評だという。
ウェルネスを打ち出しているとあって、館内には熱海最大級の規模を誇るフィットネスジムやゴルフ練習場、ヨガスタジオやピラティスマシンを備えている。そして、ガストロノミーでもウェルネスを意識している。経営戦略室支配人の大川真実さんが説明する。
「熱海は食材に恵まれた土地です。相模湾や駿河湾の美味しい海の幸と伊豆の山の幸が豊富にあります。食べて元気になる料理を心掛けています」
■従業員で試食会 料理に込められた思いも共有
ホテルにはレストランが5つあり、日本料理、フランス料理、中国料理のレストランはメニューを3か月に1度更新して季節の食材を使った料理を提供する。メニューを決める前に料理長やマネージャーらによる試食会が開かれ、味だけではなく、料理に込めた思いも関係者全員で共有してお客さんに説明できるようにしている。大川さんは「お客さまからは食材の良さ、味付けの繊細さを評価していただいています。ウェルネスへの関心が高い方は食にも興味を持っている傾向が高いと感じています」と話す。
食事と温泉を通じたウェルネスは、ビジネス面で経営者層に好まれている。館内の会議室で、少人数によるエグゼクティブミーティングや取締役会を開く企業も多い。昭和の時代に温泉街として栄えた熱海は今、首都圏から近いリゾート地として人気がある。レトロな街並みを残しながら、飲食店を中心に新しい店が次々と増えて若い観光客でにぎわっている。その中で、熱海パールスターホテルは熱海では珍しく、都市部と同様の高級感を醸す。コンセプトに掲げるのは「私の知っている熱海 私の知らない熱海」。熱海は、まだまだ新しい価値を創出できる力を秘めていると確信している。
ホテルとして今後拡大していく方針のガストロノミーも、「私の知らない熱海」を発見する契機になると大川さんは考えている。「ガストロノミーをきっかけに新しいお客さまが熱海に来ることを期待しています。海の幸の印象が強い熱海の食のイメージが変わるかもしれないと思っています」。食には人を惹きつけ、まちを変える力がある。
経営戦略室支配人の大川さん
「熱海パールスターホテル」公式サイト
★【熱海パールスターホテル】ガストロノミーの申し込みについては<こちら>(英語サイト)
■湯宿一番地 高級魚キンメダイを贅沢に提供
熱海の宿泊施設の中で、懐かしさと新しさを同時に味わえる旅館が「湯宿一番地」だ。熱海駅から徒歩2分。屋号の「一番地」には、駅を降りると「最初に出会う温泉宿」という意味が込められている。
旅館の看板は食事と温泉。伊豆の味覚を代表する高級魚のキンメダイをガストロノミーのプランでも並べる。最高級の梅干をたっぷり加えて秘伝のタレで煮たキンメダイのあたみ煮は、湯宿一番地のオリジナル。梅肉の酸味がキンメダイの旨味を引き立てる。支配人の榛葉公孝さんは提供する料理に自信を見せる。
「安定した仕入れが難しい食材を使うと、どうしても価格は高くなってしまいます。ただ、その金額でも納得していただける価値があると思っています。ガストロノミーの取り組みを通じて、見た目や食事の空間を含めた食に対する価値観にも変化が生まれる可能性を感じています」
■自家源泉2本所有 いつでも鮮度の高い良質な湯
料理とともに好評なのは、自家源泉2本を所有している温泉。温泉は海産物や野菜のように空気に触れると劣化が進んで効能が低下するという。自家源泉は鮮度を保てるため、利用客は常に良質な湯を堪能できる。
館内には20人ほどで利用できる会議室やパーティールームも完備しているため、ビジネス目的の需要もある。東京駅から新幹線で40分の熱海駅。その熱海駅から200メートルの距離にある創業78年の湯宿一番地は、首都圏から1時間足らず移動するだけで、日々の疲れを癒やす源泉かけ流しの温泉とキンメダイを中心とした熱海の食を味わえる。
支配人の榛葉さん
「熱海温泉 湯宿一番地」公式サイト
首都圏から近い立地にオーシャンビューや温泉。観光資源に恵まれた熱海はガストロノミーにおいても期待感を高めている。